OPEN HUB Park

NTTグループ内外の組織・分野の垣根を超えた自由なコミュニケーションと柔軟な発想を促し、新しい事業コンセプトの創造と社会実装を目指す活動拠点として、大手町にあるNTTコミュニケーションズ本社内に設けられた、次世代に向けたオープンスペースの内装設計です。この施設自体が、企画やデジタルクリエーション、グラフィックデザインなど、多くの外部クリエイターチームとNTTコミュニケーションズ内部の企画チームとの密な協働の結果でもあり、典型的な大規模オフィスビルの中にありながらも、外部への発信力やアイデンティティを強く持つことが求められました。

COVID-19の影響でリモートワークが普及し、リアルなワークスペースの意味が逆説的に問われる中で、ワークスペースの常識を問い直すことをテーマとして設計を行いました。施設全体を一つの生態系としてあつかい、その中で多様な対立項、例えばリアルとヴァーチャル、モノと情報、多様性と均質性、静と動、遊ぶことと働くこととなど、相反した概念・機能をあえてあいまいな形で混ぜあわせ、さらにはNon-Human Agentやスマート環境などを人と対等なコラボレーターとして取り込むことで、次世代の共創環境で多様な人が集まること、新しいアイディアを発想し、試し、技術を創り出す環境的触媒の意味とあり方に、一つの解を与えることを試みています。

85mと東西に長い大規模オフィスのグリッド空間の中に、角度を45度振った新しいグリッドを、二つの異なる壁紙を重ね合わせるように挿入し、透明なガラスの部屋が斜めに並ぶ配置を基調としました。二つの異なる系を重ね合わせることで、あたかもより大きなシステムの一部がたまたまこの区画で切り取られたかのような、ネットワーク基盤を担う企業ならではの、都市スケールの重層的なひろがりを示唆します。あえてガラスの部屋の角度や配置を構造からずらすことですき間に生じるスペースは、ひろがったりくびれたりしつつ連なる多目的な空間となります。ここには多様な活動を誘発するための複数の機能、カフェやライブラリ、ワークスペースやランドスケープと呼ぶ丘のような構造物、ハンモックの森といった場を、ゆるく偏在させながら配置します。斜めのガラス面が予想外の方向に外の景色や奥の活動を重層的に反射、屈折させることで、ミラーワールドが実現したかのような、非日常的な感覚を引き起こします。印象としてのデジタル空間と物理空間の重なり合いを誘発させるだけでなく、多目的スペースには実際に多様なセンサーやマーカーなどが組み込まれ、連続する空間自体が多様な実験や実証のための装置として機能します。

このような、センサーでの認識が難しい建築要素をあえて多用することで、デザイン性はもとより、よりロバストな環境に適応するシステム開発の実験場として機能するような工夫も、随所に盛り込まれています。例えば曲面を含むフレームレスガラスのパーティションの足下は、1/4円弧でゆるやかに床から立ち上がる特殊な巾木となっていますが、これは流動性を体現する重要なデザイン要素であると同時に、施設内を自律的に走り回る多様なエージェント群がガラスに衝突することなく、ゆるやかに方向を変え、実験を継続できるようにする現実的な装置でもあります。

構造グリッドと機能グリッドを45度ずらした重ね合わせに加え、さらにチューリングパターンと呼ばれる流れるような曲線による塗り分けパターンを、あえて構造や機能と独立に配置し、線を交錯させています。これによりそれぞれの場所が自律的に機能しつつも同時に流動、混在し、連続する空間全体に複雑さと動きの感覚、境界をあいまいにする効果や、全体を一つの有機体として認識し、常に異なるスケールを意識するような、共創スペースならではの工夫を織り込んでいます。パーティションなど立面を構成する要素には、曲面ガラスや光沢感のある金属など屈折や反射効果の強い素材を使い、空気や光の連続感を強調しているのに対して、上下で対応する床と天井の塗分けパターンには、木やモルタルなど素材感の強いマットな素材を用いることで、垂直、水平それぞれの方向での連続感を強調し、より大きなスケールの構造をイメージしやすくしています。

最初にゲストが体験するエントランススペースはあえて暗くして、外光によるバックライトと高精度LEDディスプレイによる「モノリス」による最初のWow体験を演出し、世界の多様なリアルタイムデータを可視化しプレゼンテーションにも用いられる幅10mの巨大なLEDモニターや、遠隔地からジャックイン可能な会議用アバターロボット、等身大の対面会議が可能な移動型ディスプレイなど、パーク内には様々な独自のデジタルデバイスが仕込まれています。空間デザインとしてはもちろんシステムとしても、長期的に多くのIoTデバイスやエージェントを追加しながら、オープンな実証環境として機能していくフレキシビリティを重視した設計としています。人数や使い方に応じて自由に形状や組み合わせを変えられる、アメーバのようなシステムテーブルも、そうしたフレキシビリティと多様性を実現する装置であり、機能を体現するアイコンでもあります。

細長い大空間をあえて一つの部屋のままとし、端から端へと色や密度、素材感や空間のスケール、閉鎖性や重厚さなど、あらゆる要素のグラデーションとして扱うことで、施設全体が連続する有機体として機能するように計画しています。それはデジタル技術とネットワークの世界で次世代の社会インフラ構築を使命とする企業の目指す質であり、多様なスケールを横断しながら柔軟な発想で変化を続ける姿勢のシンボルでもあります。

Year: 2022

Category: interior

Status: Completed

Location: Tokyo, Japan

Collaborator: Digital Experience: whatever / Graphic Design: Ken OKAMOTO

Photo Credit: 高木康広

Link: OPEN HUB for Smart World

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